第1話 イザナキとイザナミの日本国創設 天地ができて、五柱(神は柱で数を現す)の神が生まれたこれらの神は独神(ひとりがみ:男女の性がない中性な神)で、すぐに身を隠した次に日本国が若く浮いた脂のように、クラゲのように漂っているときに七人の神が生まれた最後の二柱の神が、イザナキ(男神)、イザナミ(女神)この二柱によって、日本国と八百万(やおよろず)の神々が生まれる「イザナキ、イザナミよ、この天の沼矛を持って、脂のように漂う国を固めて治めるのだ」二柱の神は先に生まれた神々に命じられるままに、天の浮橋に立ってその沼矛で漂う国をかきまわすと、矛の先にしたたるしずくが重なり積もって島になったこの島の名を、オノゴロジマ(淤能碁呂島)というその島に下りて、天の柱を立て、自分たちが住む家を建てた「イザナミよ、そなたの体はどうなっている?」「私の体は足らないところが一つございます」「そうか、私には余っているところが一つある私の余っている部分で、そなたの足らないところをふさいで、国土(くに)を生もうと思うが、どうだろうか?」「そうしましょう」「そうとなったら、この天の柱をまわって子供を産もうそなたは柱の右から回り、私は左から回ろう」大きな天の柱を回って再び出会う二人の神。
「あなたはなんて素敵な男性なんでしょう」「そなたはなんてかわいらしい女性なんだろう」言葉をかけ終わった後に、イザナキは首をかしげて「女性から先に言葉をかけるのはよくないのではないだろうか…」…………………「おぎゃぁ!!」 「おぉ、生まれたか、イザナミよおー、どれどれ元気な子が…やや、なんだこの子は!」「ど、どうされました、あなた」「この子には骨がないぞまるでヒルコ(水蛭子)のようだこんな子は葦で作った舟で川に流してしまえ」「どうして、こんなことに…」「イザナミよ、すんだことは気にしても仕方ないもう一度、子供を作ってみよう」「ええ、あなた」 …しかし、二人目の子供も子供と呼べないものだった その子供の名は淡島と言った「どうして、二人の子供はダメだったのか、天にいる神々に聞いてみよう」「ええ、なんだか不吉ですねそうしましょう」 二人の相談を受けた天つ神々は、占いをしてその結果を伝えた「むむ、占いの結果、女性が先に言葉をかけたのがよくないようだ今度はイザナキが最初に声をかけるのださぁ、もう一度やり直すがよい」「分かりました」 天の柱に戻り、先ほどと同じように柱をまわり、今度はイザナキから先に、「そなたはなんてかわいらしい女性なんだろう」「あなたはなんて素敵な男性なんでしょう」 このような言葉をかけた後に生まれた子供は、淡路島。
次に四国その次に隠岐の島、そして、九州を生んだ次に壱岐の島を生み、対馬を生み、佐渡を生んだ次に、オホヤマトトヨカキヅ(大倭豊秋津島:本州)を生んだ この先に生んだ八つの島を大八島国と言った この後に、児島半島を生み、小豆島を生み、次に、大島を生んだ次に姫島を生み、五島列島を生み、男女群島を生んだ第2話 神々の誕生 国を生んだ後に、イザナキとイザナミは神々を生んだまず、十柱の神を生み、その中の二神がさらに、八柱の神を生んだ 次に風の神、木の神、山の神、野の神を生んだ山の神、オホヤマヅミノカミ(大山津見神)と野の神、ノヅチノカミ(野椎神)はさらに八柱の神を生んだ 次に、二柱の神を生み、最後にヒノカグツチノカミ(火之迦具土神)を生んだこの火の神を生む際に、その子がまとった火によってイザナミのみほと(女陰)は焼かれ、病にふせってしまった 病に倒れたイザナミは、嘔吐をした その嘔吐から神が生まれた さらに、イザナミは糞(クソ)をした その糞からも神が生まれた そして、イザナミは小便をした その小便からも神が生まれた さらにその神から子どもが生まれた イザナミは、結局、火の神を生んだときに得た病から亡くなってしまった。
イザナキとイザナミが一緒に生んだのは、十四の島、三十五の神々になる第3話 火の神「いとしいわが妻が、たった一人の子供のために死んでしまうなんて…」 イザナキは、妻の枕元に身を投げ出し、号泣した その涙からも神が生まれた 泣きつかれたイザナキは、妻のなきがらを広島県の比婆の地に葬った「なぜ、お前なんか生まれたんだお前の顔など見たくないこうしてくれる!」 バシュッ! イザナキはトツカノツルギ(十拳剣)を握り、生まれて間もないカグツチノカミ(迦具土神)の首をはねてしまった 十拳剣にしたたる迦具土神の血 その剣の切っ先についた血から三柱の神が生まれた 剣の根元にしたたる血からも神が生まれた 三柱目の神がタケミカヅチノヲノカミ(建御雷之男神) さらに、剣の鍔(つば)に集まった血からも二柱の神が生まれた 以上の神々は、刀によって生まれた神である 殺された迦具土神の頭、胸、腹、陰(ほと)、左手、右手、左足、右足からそれぞれ神が生まれた迦具土神を斬った刀をアメノヲバリ(天之尾羽張)と言った第4話 黄泉の国 「美しい我が妻よそなたと作った国は、まだ作り終えてはいないさぁ、一緒に帰ろう」 妻の死を嘆き悲しむあまり、今一度妻に会おうと黄泉の国を訪れたイザナキは、黄泉の国の入り口のドアを叩きながら大きな声で呼びかけた。
「あぁ、口惜しいいとしいあなた、どうしてあなたはもっと早く来てくださらなかったのですか私はすでに、黄泉の国の食べ物を口にしてしまいましたもう、元の国には帰れません」「我が妻よそんな悲しいことは言わないで、どうか私の元に帰ってきておくれそなたがいないとさびしくて、この身が引き裂かれそうだ」「…分かりましたいとしいあなたがそこまでも私のことを思ってくださるのであれば、黄泉の神と話し合ってみますもしかしたら、私たちのことを許してくださるかもしれませんでも、私が黄泉の神と話している最中に、この黄泉の国の中に入って私の姿を決して見ないでくださいね約束ですよ」「分かった早く黄泉の神と話し合って、一刻も早く国に帰ろう」 黄泉の神と話し合うために奥に入ったイザナミ …一時間 …二時間 …三時間 一向に姿を現さない妻、イザナミ 徐々に不安になり、また待ち遠しく我慢ができなくなったイザナキは、妻との約束を破り、中の様子を伺おうと、髪からクシを差し抜き、そのクシの歯を一本折って、その歯に火をともし、その光を頼りに黄泉の国の中に進入し、妻を捜した「……どうか、私をこの黄泉の国から出させてください」 遠くから妻の声が聞こえてくる。
はやる気持ちを抑えきれないイザナキは、妻の声のするほうに駆け寄った「我が妻よ……うぉっ! な、なんてことだそなたは本当に我が妻なのか!」 妻の声を発するその姿は驚くばかり その口にはうじ虫が集まり、声がむせびかえり、 頭には大雷(おおいかずち) 胸には火雷(ほのいかずち) 腹には黒雷(くろいかずち) 女陰には拆雷(さきいかずち) 左手には若雷(わかいかずち) 右手には土雷(つちいかずち) 左足には鳴雷(なりいかずち) 右足には伏雷(ふしいかずち)の八つの雷神がその体にまとわりつく 妻の恐るべきその姿にビックリ仰天したイザナキは、我を忘れて黄泉の国から逃げようとした「どうして、約束を破り、私のこの醜い姿を見たのですかよくも私に恥をかかせましたね!」 そういうと、黄泉の国の醜女(しこめ)たちに命じて、逃げる夫を追わせた 必死に逃げるイザナキ しかし、醜女たちの足は速く、追いつかれそうになったイザナキは、髪を束ねた蔓(かずら)を取って醜女に投げつけると、それはブドウの実になった醜女たちがブドウの実を食べている間にさらに逃げるイザナキそれでも、ブドウの実を食べ終えた醜女たちはすぐにイザナキを追いかける。
またしても追いつかれそうになったイザナキは、右側の髪からクシを抜いて投げつけると、竹の子になった醜女が竹の子をほおばっている間に逃げ続けるイザナキ「ハァハァハァ、出口はまだか…」 あせるイザナキを追う醜女たち 振り返ると、醜女たちだけでなく、イザナミの全身にまとわりついていた八つの雷神が黄泉の国の兵士をともなって迫ってくる姿が目に入る さらにあせるイザナキ 絶体絶命のイザナキ 彼は火の神を殺した十拳剣を抜き放ち、後ろ手で振りながら逃げ続けた ようやく黄泉の国と現実の国との境である、黄泉比良坂(よもつひらさか)の坂本にたどり着いたそして、その場所になっていた桃の実を3つもぎとり、八つの雷神と兵士たちに投げつけた「ぎゃっ!」 桃の実の聖なる力に驚き逃げ惑う黄泉の国の兵士たち「ふぅ、助かった桃の実よ、私を今助けてくれたように、今後もこの世の人々が苦しみ悩むときに助けてくれよ」 追っ手をまいて、一息ついていたイザナキ「う、うーんふぅ、よし、これでもう大丈夫だろう…」 黄泉の国とこの世の境目に大きな岩を置き、行き来できないようにしたそのとき、その岩のむこう、今は黄泉の国の住人になってしまったイザナミの声が聞こえる。
「いとしい、あなたどうしてこんなことをするのですか」「そなたはもうこの世のものではないのだ私たちはもう一緒になれない…」「なんてことをおっしゃるのですか早くこの岩をどかしてください!」「ダメだ、できない」「ええい、いまいましい! ならば、これからあなたの国の人々を一日に千人くびり殺してくれよう!」「いとおしい我が妻よ、そなたがそのような振る舞いをするならば、私は一日に千五百人の人を生んでいこうぞ」こうして、一日に千人亡くなり、千五百人の人が生まれてくるようになった第5話 ミソギと三貴子 「……妻よ」 愛した妻の驚くべき姿を見たイザナキは、疲れた体を休ませるために大きな岩に腰をかけた「ふぅ、汚くけがれた国に行ってしまったな川の水で身を清めねば」 少し休んだ後に、ミソギ(禊)をするために川に向かったイザナキは、杖を捨て、帯を捨て、袋を捨て、着ている服を脱ぎ捨て、はかまを脱ぎ捨て、身につけていた冠を投げ捨て、左右の手につけていた装飾具を捨て丸裸になった (これらの身につけていた杖、帯、袋、服、はかま、冠、装飾具からそれぞれ神が生まれた) 裸になって川に入るイザナキ その体をすすぐと、けがれた体からケガレの神々が生まれた。
けがれた体がきれいにすすがれると、今度はケガレナキ神々が生まれた 最後にイザナキは左の目を洗い、右の目を洗い、鼻を洗った 左目からはアマテラスオオミカミ(天照大御神)、 右目からはツクヨミノミコト(月読命)、 鼻からはタケハヤスサノヲノミコト(建速須佐之男命)が生まれた これら三柱の貴公子の誕生をイザナキは心から喜び、首にかけていた首飾りをアマテラスに渡し、「アマテラスよ、そなたは高天の原(たかま。