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芥川龙之介-河童(日文版)

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芥川龙之介-河童(日文版)_第1页
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1河童……芥川龍之介どうか Kappa と発音してください序これはある精神病院の患者、――第二十三号がだれにでもしゃべる話である彼はも う三十を越しているであろうが、一見したところはいかにも若々しい狂人である彼 の半生の経験は、――いや、そんなことはどうでもよい彼はただじっと両膝(りょう ひざ)をかかえ、時々窓の外へ目をやりながら、 (鉄格子(てつごうし)をはめた窓の外 には枯れ葉さえ見えない樫(かし)の木が一本、雪曇りの空に枝を張っていた )院長の S博士や僕を相手に長々とこの話をしゃべりつづけたもっとも身ぶりはしなかったわ けではない彼はたとえば「驚いた」と言う時には急に顔をのけぞらせたりした……僕はこういう彼の話をかなり正確に写したつもりであるもしまただれか僕の筆記に 飽き足りない人があるとすれば、東京市外××村のS精神病院を尋ねてみるがよい年 よりも若い第二十三号はまず丁寧(ていねい)に頭を下げ、蒲団(ふとん)のない椅子 (いす)を指さすであろうそれから憂鬱(ゆううつ)な微笑を浮かべ、静かにこの話 を繰り返すであろう最後に、――僕はこの話を終わった時の彼の顔色を覚えている 彼は最後に身を起こすが早いか、たちまち拳骨(げんこつ)をふりまわしながら、だれ にでもこう怒鳴(どな)りつけるであろう。

――「出て行け! この悪党めが! 貴様 も莫迦(ばか)な、嫉妬(しっと)深い、猥褻(わいせつ)な、ずうずうしい、うぬぼ れきった、残酷な、虫のいい動物なんだろう出ていけ! この悪党めが!」一三年前(まえ)の夏のことです僕は人並みにリュック・サックを背負い、あの上高 地(かみこうち)の温泉宿(やど)から穂高山(ほたかやま)へ登ろうとしました穂 高山へ登るのには御承知のとおり梓川(あずさがわ)をさかのぼるほかはありません 僕は前に穂高山はもちろん、槍(やり)ヶ岳(たけ)にも登っていましたから、朝霧の 下(お)りた梓川の谷を案内者もつれずに登ってゆきました朝霧の下りた梓川の谷を ――しかしその霧はいつまでたっても晴れる景色(けしき)は見えませんのみならず かえって深くなるのです僕は一時間ばかり歩いた後(のち) 、一度は上高地の温泉宿へ 引き返すことにしようかと思いましたけれども上高地へ引き返すにしても、とにかく 霧の晴れるのを待った上にしなければなりませんといって霧は一刻ごとにずんずん深 くなるばかりなのです 「ええ、いっそ登ってしまえ 」――僕はこう考えましたから、 梓川の谷を離れないように熊笹(くまざさ)の中を分けてゆきました。

しかし僕の目をさえぎるものはやはり深い霧ばかりですもっとも時々霧の中から太 い毛生欅(ぶな)や樅(もみ)の枝が青あおと葉を垂(た)らしたのも見えなかったわ けではありませんそれからまた放牧の馬や牛も突然僕の前へ顔を出しましたけれど もそれらは見えたと思うと、たちまち濛々(もうもう)とした霧の中に隠れてしまうの ですそのうちに足もくたびれてくれば、腹もだんだん減りはじめる、――おまけに霧 にぬれ透(とお)った登山服や毛布なども並みたいていの重さではありません僕はと うとう我(が)を折りましたから、岩にせかれている水の音をたよりに梓川の谷へ下 (お)りることにしました僕は水ぎわの岩に腰かけ、とりあえず食事にとりかかりましたコオンド・ビイフの 罐(かん)を切ったり、枯れ枝を集めて火をつけたり、――そんなことをしているうち2にかれこれ十分はたったでしょうその間(あいだ)にどこまでも意地の悪い霧はいつ かほのぼのと晴れかかりました僕はパンをかじりながら、ちょっと腕時計(どけい) をのぞいてみました時刻はもう一時二十分過ぎですが、それよりも驚いたのは何か 気味の悪い顔が一つ、円(まる)い腕時計の硝子(ガラス)の上へちらりと影を落とし たことです。

僕は驚いてふり返りましたすると、――僕が河童(かっぱ)というもの を見たのは実にこの時がはじめてだったのです僕の後ろにある岩の上には画(え)に あるとおりの河童が一匹、片手は白樺(しらかば)の幹を抱(かか)え、片手は目の上 にかざしたなり、珍しそうに僕を見おろしていました僕は呆(あ)っ気(け)にとられたまま、しばらくは身動きもしずにいました河童 もやはり驚いたとみえ、目の上の手さえ動かしませんそのうちに僕は飛び立つが早い か、岩の上の河童へおどりかかりました同時にまた河童も逃げ出しましたいや、お そらくは逃げ出したのでしょう実はひらりと身をかわしたと思うと、たちまちどこか へ消えてしまったのです僕はいよいよ驚きながら、熊笹(くまざさ)の中を見まわし ましたすると河童は逃げ腰をしたなり、二三メエトル隔たった向こうに僕を振り返っ て見ているのですそれは不思議でもなんでもありませんしかし僕に意外だったのは 河童の体(からだ)の色のことです岩の上に僕を見ていた河童は一面に灰色を帯びて いましたけれども今は体中すっかり緑いろに変わっているのです僕は「畜生!」と おお声をあげ、もう一度河童(かっぱ)へ飛びかかりました。

河童が逃げ出したのはも ちろんですそれから僕は三十分ばかり、熊笹(くまざさ)を突きぬけ、岩を飛び越え、 遮二無二(しゃにむに)河童を追いつづけました河童もまた足の早いことは決して猿(さる)などに劣りません僕は夢中になって追 いかける間(あいだ)に何度もその姿を見失おうとしましたのみならず足をすべらし て転(ころ)がったこともたびたびですが、大きい橡(とち)の木が一本、太ぶとと 枝を張った下へ来ると、幸いにも放牧の牛が一匹、河童の往(ゆ)く先へ立ちふさがり ましたしかもそれは角(つの)の太い、目を血走らせた牡牛(おうし)なのです河 童はこの牡牛を見ると、何か悲鳴をあげながら、ひときわ高い熊笹の中へもんどりを打 つように飛び込みました僕は、――僕も「しめた」と思いましたから、いきなりその あとへ追いすがりましたするとそこには僕の知らない穴でもあいていたのでしょう 僕は滑(なめ)らかな河童の背中にやっと指先がさわったと思うと、たちまち深い闇 (やみ)の中へまっさかさまに転げ落ちましたが、我々人間の心はこういう危機一髪 の際にも途方(とほう)もないことを考えるものです僕は「あっ」と思う拍子にあの 上高地(かみこうち)の温泉宿のそばに「河童橋(かっぱばし) 」という橋があるのを思 い出しました。

それから、――それから先のことは覚えていません僕はただ目の前に 稲妻(いなずま)に似たものを感じたぎり、いつの間(ま)にか正気(しょうき)を失 っていました二そのうちにやっと気がついてみると、僕は仰向(あおむ)けに倒れたまま、大勢の河 童にとり囲まれていましたのみならず太い嘴(くちばし)の上に鼻目金(はなめがね) をかけた河童が一匹、僕のそばへひざまずきながら、僕の胸へ聴診器を当てていました その河童は僕が目をあいたのを見ると、僕に「静かに」という手真似(てまね)をし、 それからだれか後ろにいる河童へ Quax, quax と声をかけましたするとどこからか河 童が二匹、担架(たんか)を持って歩いてきました僕はこの担架にのせられたまま、 大勢の河童の群がった中を静かに何町か進んでゆきました僕の両側に並んでいる町は 少しも銀座通りと違いありませんやはり毛生欅(ぶな)の並み木のかげにいろいろの3店が日除(ひよ)けを並べ、そのまた並み木にはさまれた道を自動車が何台も走ってい るのですやがて僕を載せた担架は細い横町(よこちょう)を曲ったと思うと、ある家(うち) の中へかつぎこまれましたそれは後(のち)に知ったところによれば、あの鼻目金を かけた河童の家、――チャックという医者の家だったのです。

チャックは僕を小ぎれい なベッドの上へ寝かせましたそれから何か透明な水薬(みずぐすり)を一杯飲ませま した僕はベッドの上に横たわったなり、チャックのするままになっていました実際 また僕の体(からだ)はろくに身動きもできないほど、節々(ふしぶし)が痛んでいた のですからチャックは一日に二三度は必ず僕を診察にきましたまた三日に一度ぐらいは僕の最 初に見かけた河童、――バッグという漁夫(りょうし)も尋ねてきました河童は我々 人間が河童のことを知っているよりもはるかに人間のことを知っていますそれは我々 人間が河童を捕獲することよりもずっと河童が人間を捕獲することが多いためでしょう 捕獲というのは当たらないまでも、我々人間は僕の前にもたびたび河童の国へ来ている のですのみならず一生河童の国に住んでいたものも多かったのですなぜと言ってご らんなさい僕らはただ河童(かっぱ)ではない、人間であるという特権のために働か ずに食っていられるのです現にバッグの話によれば、ある若い道路工夫(こうふ)な どはやはり偶然この国へ来た後(のち) 、雌(めす)の河童を妻にめとり、死ぬまで住ん でいたということですもっともそのまた雌の河童はこの国第一の美人だった上、夫の 道路工夫をごまかすのにも妙をきわめていたということです。

僕は一週間ばかりたった後、この国の法律の定めるところにより、 「特別保護住民」と してチャックの隣に住むことになりました僕の家(うち)は小さい割にいかにも瀟洒 (しょうしゃ)とできあがっていましたもちろんこの国の文明は我々人間の国の文明 ――少なくとも日本の文明などとあまり大差はありません往来に面した客間の隅(す み)には小さいピアノが一台あり、それからまた壁には額縁(がくぶち)へ入れたエッ ティングなども懸(かか)っていましたただ肝腎(かんじん)の家をはじめ、テエブ ルや椅子(いす)の寸法も河童の身長に合わせてありますから、子どもの部屋(へや) に入れられたようにそれだけは不便に思いました僕はいつも日暮れがたになると、この部屋にチャックやバッグを迎え、河童の言葉を 習いましたいや、彼らばかりではありません特別保護住民だった僕にだれも皆好奇 心を持っていましたから、毎日血圧を調べてもらいに、わざわざチャックを呼び寄せる ゲエルという硝子(ガラス)会社の社長などもやはりこの部屋へ顔を出したものです しかし最初の半月ほどの間に一番僕と親しくしたのはやはりあのバッグという漁夫(り ょうし)だったのです。

ある生暖(なまあたた)かい日の暮れです僕はこの部屋のテエブルを中に漁夫のバ ッグと向かい合っていましたするとバッグはどう思ったか、急に黙ってしまった上、 大きい目をいっそう大きくしてじっと僕を見つめました僕はもちろん妙に思いました から、 「Quax, Bag, quo quel, quan?」と言いましたこれは日本語に翻訳すれば、 「お い、バッグ、どうしたんだ」ということですが、バッグは返事をしませんのみなら ずいきなり立ち上がると、べろりと舌を出したなり、ちょうど蛙(かえる)の跳(は) ねるように飛びかかる気色(けしき)さえ示しました僕はいよいよ無気味になり、そ っと椅子(いす)から立ち上がると、一足(いっそく)飛びに戸口へ飛び出そうとしま したちょうどそこへ顔を出したのは幸いにも医者のチャックです 「こら、バッグ、何をしているのだ?」4チャックは鼻目金(はなめがね)をかけたまま、こういうバッグ[#「バッグ」は底 本では「バック」 ]をにらみつけましたするとバッグは恐れいったとみえ、何度も頭へ 手をやりながら、こう言ってチャックにあやまるのです 「どうもまことに相(あい)すみません。

実はこの旦那(だんな)の気味悪がるのがお もしろかったものですから、つい調子に乗って悪戯(いたずら)をしたのですどうか 旦那も堪忍(かんにん)してください 」三僕はこの先を話す前にちょっと河童というものを説明しておかなければなり。

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