四 随筆・文学理念v随筆とは、心のおもむくままに、折々の体験、 あるいは時々の感想や思索のひとこまを書き 綴ったものであるv自由に、断片的に自己を表現する文学と言え るv随筆という文学形態を新しく開いたのは、「枕草 子」である「枕草子」v996年以後成立v清少納言v最初の随筆で、平安女流文学の代表的傑作v約300段からなる類集的章段、日記(回想)的章段、随筆的章段 の三つに分けられるv類集的章段には、「山は」「鳥は」などで始まる「も のはづけ」と、「めでたきもの」「すさまじきもの」など で始まる「ものづくし」とがあるどちらも見出しの下 に、それに一括できるものを列挙していて、作者の 美的世界を分類したものといえるv日記(回想)的章段は、中宮定子を中心とした華や かな宮廷生活の回想で、作者の機知に富んだ言 動が見られるv随筆的章段は、「春はあけぼの」のように、自然や 人間についての感想を自由に書き綴ったものであ るv作者独特の鋭敏な感覚と観察力、感傷におぼ れない客観性、新鮮で印象的描写、簡潔で気 品のある文体によって、自然や人間の断面を 的確にとらえているv明るく若々しい「をかし」の美が基調となって、 中古文学の中で独自の高さを持つ。
「源氏物語」と「枕草子」の比較「源氏物語」「枕草子」作者・ 成立1005年までに一部成立 紫式部996年以後に成立 清少納言 内容54巻の長編物語 虚構を通して貴族社会の 理想と現実を描く自然や人生について の感想、宮廷生活の 回想を集めたもの特色深い思索・内省的態度・ 深刻な人生批判・流麗繊 細の文体 「もののあはれ」鋭い感覚・客観的態 度・印象鮮明な描写・ 簡潔で気品ある文体 「をかし」 意義先行文学を総合した最高 傑作随筆の形態を創始し た傑作五 中古文学の文学理念vあはれ自然・人事などに触れて起こる内面的な感動をいう親愛・感激・悲哀・賛嘆などの感情を表す平安時代、文学上の美意識として、優美・繊細・理知的 な感覚と結びつき一般的に用いられた江戸時代には哀憐・悲哀の意に用いられたvもののあはれ「もの」と人間的感動の「あはれ」とが結合し て生ずる情趣をいう本居宣長が「源氏物語玉の小櫛」で提唱し た平安文学の理念vをかし明るい知的な魅力を感ずる情趣をいう「あはれ」の内面的に対して、「をかし」は外 界を知的感覚で客観的にとらえる傾向がある「源氏物語」の「もののあはれ」に対して、「枕 草子」の文学理念などについていわれる。